2012年6月3日日曜日

地図に残る仕事

「清水の棚田」復旧工事現場を視察しました.


 昨年3月の東日本大震災の一連の地震で長野県北部地震が3月19日に発生しました.新潟県十日町市(旧松代町)の「清水の棚田」という美しい景観で知られていた棚田が,この地震によって引き起こされた地すべりで大規模に壊れてしまいました.

地すべり前の清水の棚田 http://seitenheki.exblog.jp/i20/

地すべり後の清水の棚田


 昨年からこの棚田の復旧に生産環境科学科のA田先生と私が携わっており,棚田の復旧案を提案することになりました.復旧案作成にあたっては「平行畦畔型等高線区画」というA田先生が20年以上も前に開発し,農業土木の教科書にも載っている手法がベースになっています.この手法は,過疎化・高齢化に伴って耕作放棄地が増えている中山間地域でも,平野の田んぼと同じくらい効率的に作業ができるため,耕作放棄を抑えるのに効果的です.しかも,等高線に沿って区画を配置するため,中山間地域の景観を大きく損なうことないという点でも優れています(詳しくは,「有田博之・木村和弘(1997)持続的農業のための水田区画整理,農林統計協会」を参考にしてください).
 しかし,これまでこの手法が事業地区全体の計画に使われたことはありませんでした.複雑な地形での設計が難しかったのです.私たちは,こうした問題を解決するため,GIS(地理情報システム)を使った設計方法を開発しました.
 今回は復旧事業を急ぐ必要があったことから,復旧案作成のために私たちに与えられた時間は2週間ほどしかありませんでしたが,このGIS手法が本領を発揮し,期限通り案を作成することができました.
地すべり後の清水の棚田


 地元農家への説明会も行い,了解を得た上で,やっと今年の雪解け後に工事が始まりました.
 ブルドーザやバックフォーなどが行き交う中,こんな山奥の「キャンバス」に私たちが設計した棚田ができるかと思うと,なんだか芸術家になった気分.降雪前の今年の11月には完成予定です.
 
 農業土木は,地図に残る仕事ができるという点でも,とても魅力的な分野です.